魅力的なアプローチはアイディア次第!~「庭とアプローチを兼ねる」という一石二鳥の住宅デザイン手法

新井アトリエ一級建築士事務所

090-1839-8213

〒225-0013 神奈川県横浜市青葉区荏田町1150-7
(東急田園都市線 江田駅下車 徒歩10分)

営業時間 09:00~18:00 定休日 不定休

魅力的なアプローチはアイディア次第!~「庭とアプローチを兼ねる」という一石二鳥の住宅デザイン手法

デザイン住宅コラム,ブログ

2020/05/29 魅力的なアプローチはアイディア次第!~「庭とアプローチを兼ねる」という一石二鳥の住宅デザイン手法

「家路を急ぐ夕暮れどき・・・。道の角を曲がると我が家が見えてきました。緑の木立の中、アプローチの歩を進めると、ダイニングの灯りが見えてきて・・ただいま!」

日頃の暮らしのワンシーン。それが心温まるような、お気に入りのワンシーンであったなら、それは素敵なことですね。住宅における「アプローチ」とは、そんな素敵なワンシーンを実現してくれる心強い味方です。本コラムではそんな魅力的なアプローチづくりのアイディアをご紹介したいと思います。

 

アプローチの伝統文化

「アプローチ」という言葉をきいて、なんだかワクワクするようなシーンを思い描いてしまうのは私だけでしょうか・・。いや、きっと人それぞれ今までの体験の中から、何か印象深いシーンを思い起こすに違いありません。

私は生まれも育ちも横浜ですが、設計事務所勤務時代に3年間、大阪の支社にいたことがありました。そこでは週末のたびに京都へと足繁く通い、伝統的な日本建築や庭園を見て歩いていましたが、特に大徳寺高桐院の素晴らしさに大きな感銘を受けました。

山門の前に立つと、切り取られたフレームの中に深遠な世界が佇みます。鮮やかな緑色をした苔のじゅうたんと木々の奥に控える漆黒の闇・・・思わずハッと息を飲むようなシーンです。

 

上を見上げると、瓦屋根の手前でひと振りのモミジの枝葉が美しく迎えています。

 

山門をくぐり右手に折れると、そこはやわらかい緑の天幕に覆われた美しい空間で、石畳の道に木漏れ日がやさしく降り注ぎます。新緑の初夏や紅葉の秋など、訪れる季節によっても違った表情を見せてくれます。

 

心に染みるアプローチ・・・日本にはこういった素晴らしい伝統文化が残されています。そのエッセンスの一握りでも一般の住まいに採り入れることができたら・・・そういう想いから私はアプローチをとても重視しています。

 

アプローチの潜在力

アプローチを魅力的なものにしたい・・・そう考えたとき、アプローチという空間には特有の潜在力があることに気づきます。

アプローチは外部なので「光」「風」「緑」といった自然の恵みをふんだんに活かした潤いある空間をつくるチャンスがあります。一方、外部でありながら敷地内のプライベートな空間でもあるため、室内のように囲いこまれた親密な雰囲気の空間としてデザインすることもできます。アプローチは外部と内部の魅力を併せ持つ空間となりうる・・・人の心の琴線に触れるような魅力的な空間となりうる大きな可能性を秘めた場所なのです。

 

アプローチの役割

アプローチが日々の生活に寄与する重要な点として、ここを行き来する人の気持ちを切り替えてくれるという役割があります。日々、外に働きに出る大人にとっても、学校に通う子供にとっても、一日の始まりや終わりにどういうシーンが迎えてくれるかはとても大事で、人生において日々繰り返される体験として大切な要素なのではないかと思います。いったん家に入ってしまえば、家事や勉強など何かの作業に取り組む時間が圧倒的に多いのに対して、アプローチを歩くときは意識が純粋に空間体験へと向きます。そのわずか数秒、数十秒の「心が洗われるホッとした一瞬の体験」が日々繰り返されることで、その家に住むことの充実感、そして人生の満足感はより大きなものになるのではないかと思います。

 

庭とアプローチを兼ねる

一方、住宅において「庭」も大切な要素です。リビングから、ダイニングから、庭の美しい緑が眺められる。気持ちのいい季節には庭に出てお茶を飲み、食事をする。・・・庭は暮らしに潤いをもたらしてくれます。

ところが、「庭」と「アプローチ」を双方とも魅力的に造りたいと考えたとき、敷地の比較的小さな住宅では、スペースの問題から困難となる場合もあります。そこで考えたのが「庭とアプローチを兼ねる」という手法です。アプローチの途中にゲート等を設け、そこから内側のプライバシーさえ確保できれば、庭を経由して玄関まで至る長いアプローチを組むことができます。こうすれば、庭は「通り庭」であり、そこでお茶や食事などもできる「使う庭」でもあり、リビングダイニングから「眺める庭」でもあり、室内に明るさをもたらす「光庭」でもある。これは「一石二鳥」どころか「一石四鳥」の庭といえるわけです。

アプローチを兼ねた庭を日々行き来することで、四季折々の自然の表情や変化を日常的に感じることができ、潤いある生活が楽しめます。毎朝、仕事に出かけるとき、玄関を開けてすぐに街に出るのではなく、室内から庭、そしてアプローチを進みながら徐々に街へ出ていくことで、人の心理も穏やかに変化していき、気持ち良く出かけることができるように思います。そして帰宅時もアプローチの植栽を楽しみながら徐々に玄関まで歩み進む・・・「帰ってきたなあ」という嬉しさがじわっとこみあげてくる瞬間がそこにあります。

そのような手法を用いた住宅として、私が設計を手掛けた2つの事例をご紹介します。

 

■荏田町の家

私の自宅兼アトリエです。駐車スペースから中庭を通って玄関へ至るアプローチをとっています。

 

道路側外観。右側の階段を上がり、板塀裏のゲートを通って左側の庭へ抜けるアプローチ。

 

 

「通り庭」として。ゲート前後のアイストップとなる樹木はエゴノキとハウチワカエデ。

 

 

 

 

  

「使う庭」として。季節のよい時期は読書やコーヒーブレイク、そしてバーベキューが楽しい。

 

「眺める庭」「光庭」として。室内と木デッキがフラットに連続する。

 

■朝霞の家

荏田町の家と同様、駐車スペースから中庭を通って玄関へ至るアプローチをとっています。玄関の一角は奥さまが施術するマッサージ室を兼用したコーナーとなっています。

 

道路側外観。板塀右側のゲートから庭に入り、玄関へ向かうアプローチ。

 

板塀のゲートから庭に入ったところ。アイストップとなる高木は左がヤマボウシ、右がエゴノキ。

 

板塀のゲートからガラス扉の玄関へ。庭を兼用したアプローチ。

 

広めの玄関はマッサージ室を兼ねている。左に庭、右奥にリビングが見える。

 

夕暮れ時の中庭。帰宅するとこの庭に迎え入れられ「おかえり!」というワンシーン。

 

アプローチには様々な植物を植えて

庭やアプローチの植栽には、樹木から地被類まで、極力多くの種類を混植することを心掛けています。それによって、自然の野山に近い風景ができ、ホッとくつろげる空間をつくることができます。植物の種類は、住まい手の希望があれば採り入れますが、基本的にはその地域の在来種を中心に構成しています。そうすることで、その土地に元々ある風景との連続性をつくり出すことができますし、その花や実を求めて鳥や蝶などその土地に息づく生き物もやってくる素敵な庭をつくることができるからです。

多種混植するという点において、庭よりもアプローチのほうがより大切だと最近感じています。植物はたいてい何らかの花を咲かせるものですが、実は小さくて目立たなく、人知れず咲いている花も多いのです。例えば、サクラやツバキの花は大きくて目立つので皆さんご存じと思いますが、モミジの花をイメージすることはできますでしょうか・・?私も以前は「モミジって花は咲くの?」くらいに思っていましたが、我が家のアプローチにモミジを植えて、日々その前を行き来していたある時、新緑の頃、若葉の陰で小さくささやかに咲いている紅色の花が目に留まりました。それに「あっ」と気付いたときは感動しましたし、その他いろいろな樹木が小さな花を咲かせているのを見つけるたびに、「小さく可憐な花も愛おしい」と感じるようになったものです。日々行き来しながら植物を目近で見られるアプローチこそ、様々な植物を植えて、四季折々の変化を楽しみたいものです。

多種混植した庭の植栽。四季折々の花々が少しずつ楽しめる。左列上から下にヤマブキ、ナデシコ、ヤマモミジ、右列上から下にアセビ、ダンコウバイ、シャガ。

 

点から面へと風景をつなげる

庭やアプローチに植栽を施し、豊かな空間にすることは、住まい手の人生を豊かにするだけでなく、それを目にする道行く人々の気持ちも豊かにしますし、緑豊かな街の風景をつくることにもつながっていきます。私が設計を手掛ける家は、街の中では「点」の存在に過ぎませんが、日々そこを通る街の人々の心に響き、それが「線」になり、「面」となって広がっていけば、これほど嬉しいことはありません。

 

 

 

★★併せて読みたいブログ★★

「庭とアプローチを兼ねる」という手法を実践した新たな事例として、下記ブログもぜひご覧ください。

能ヶ谷の家-各部紹介1~「オープン玄関」によるカフェのようなアプローチ

 

 

新井崇文
新井アトリエ一級建築士事務所
電話番号 090-1839-8213
住所 〒225-0013 神奈川県横浜市青葉区荏田町1150-7
営業時間 09:00~18:00
定休日 不定休

TOP